著者は、デビッド・A・シンクレア。2020年9月29日発行です。
「LIFE SPAN -老いなき世界-」(Why We Age-and Why We Don’t Have To)
人が健康なまま120歳まで生きられる時代が近づいていると言う。
著者は30年近く生物としての人間の仕組みや機能を研究し、ハーバード大学医学大学院に研究室を持っている。同時に「ポール・F・グレン老化生物学研究センター」の共同所長という立場でもある。シドニーの母校でも姉妹研究室を率いており、疾患モデル動物を使い老化を早めたり若返らせたりする実験をしている。
最先端の研究を通して発見した数々のことについて、彼自身はもちろん、家族や友人、研究仲間の多くも自分の生活に取り入れてきているとのこと。その成果はいまのところ期待を持てるものとのこと。
「老化ほど危険な病気はない」
老化は身体機能を衰えさせ、がんや様々な病気を招き怪我の回復も遅れるようになる。現在はまだ病気になったら医者にかかるという順番だが、病気どころかそれを招く一番のリスクである「老化」を少しでも先延ばしにすることができれば健康寿命が延びる。著者はそれを願っている。
健康長寿のために誰もが取り組めること
★食事の量や回数を減らせ・空腹を感じることが大切
サーチュインのプログラムを働かせる鍵は、カロリー制限を通して体を「ギリギリの状態」に保つこと。健康な機能を保てるくらいの食事をとり、決して摂り過ぎないこと。すると病気や体の劣化を防ぎ、老化を遅らせることができる。
※1978年に100歳以上の住民が多かった沖縄。児童の摂取する総カロリー量が本土の児童の三分の二に満たなかった。成人も本土の成人より20%少なかったとのこと。当時の沖縄の人々は健康寿命も長く長生きで脳血管系疾患・がん・心臓病も非常に少なかった。
※アカゲザルの研究ではカロリー制限(7割にした)をした20頭のうち、6頭が人間でいえば120歳まで長生きした。一部のサルは中年から実験したがそれでも十分だった。マウスの実験でも人間でいえば60~65歳からカロリー制限をスタートさせても寿命を延ばす効果が確認されている。ただし開始時期が早ければ早いほど延び幅も大きかった。
★間欠的断食でも健康増進・・・朝食を抜き遅い昼食を摂る「16時間ダイエット」、週に2日カロリーを75%に減らす、週に2~3日食物を摂らない、などなど。
★アミノ酸を制限する(やはり、肉は危険らしい)
肉類には9つの必須アミノ酸が含まれているが、摂りすぎは身体に悪い。動物性に片寄った食生活をしていると心血管疾患による死亡率とがんの発症率が共に高まる。特にソーセージ・ハム・ベーコン、赤身肉のカルチニンが腸内でトリメチルアミン-N-オキシドに変わり、心臓病の原因になるとも言われている。
肉(や乳製品)を減らすと一時的に必須アミノ酸が欠乏するかもしれないが、オートファジーにより体内の損傷したタンパク質を再利用するのでちょうど良いと筆者は言う。
★必須アミノ酸の中でもメチオニンを減らすと体脂肪減少・血糖値が下がることがわかった。牛肉・仔羊肉・鶏肉・豚肉・卵にはメチオニンが豊富だ。またアルギニン・ロイシン・イソロイシン・バリンの摂取量を控えると寿命が延びることがわかっている。
ボディービルダーがよく飲むプロテインドリンクは、自らのオートファジーを働かせるためには40歳過ぎたらやめた方がいいかも知れない。
肉好きよりもベジタリアンの方が心血管系疾患やがんに圧倒的にかかりにくいのはこうした背景があるからかもしれないと言う。(カロリー摂取量の低さやポリフェノール摂取量の多さかも知れないとも。)
★運動をする人ほどテロメアが長い
よく運動する人のテロメアは座りがちな人より長い。その長さは10歳近く若い人と同等。身体に運動というストレスを与えるとNADの濃度が上昇し、サバイバルネットワークが作動する。
運動強度はある程度強い必要がある。(呼吸は深く早くなり、鼓動は最大心拍数の70~85%になる。)当然汗をかく、いわゆる低酸素応答と呼ばれるもの。これにより数々の長寿遺伝子がプラスの方向に調整される。
★寒さに身をさらすことで、長寿遺伝子を働かせることができる
★サウナも効果がある
寒い・暑いなどのストレスを身体に与えることは、サバイバルネットワークの活性化につながる。
★タバコ、化学物質、放射線は老化を早める。
大気汚染、飛行機やCT検査をなるべく受けないなどなど。
亜硝酸ナトリウムで処理された食品はやめよう(一部のビール、塩漬けや燻製の保存処理した肉、加熱したベーコンなど)
プラスチック容器に食べ物を入れてレンジで加熱するのもやめよう。
研究の詳しい過程も記してあるが省略。
老化を治療する薬
糖尿病治療薬として処方されるメトホルミンには健康長寿効果があった。
レスベラトロールにも効果あり。(調べてみると、エストロゲンのように働くことがあるので、ホルモン由来の乳がん経験者などはやめた方が良い。)
著者の父が70代半ばで境界線糖尿病治療のためにメトホルミンを飲み始め、翌年からNMNも摂るようになった。当時、糖尿病予備軍となり、耳は少し遠く、視力も落ちて疲れやすく同じ話を何度も繰り返す普通の初老の人であった。不機嫌になることも多くなっていた。
薬を飲み始めて半年ほど経った時、「大騒ぎをしたくはないんだけどね、確かに何かが起きているよ。」と言った。疲れを感じにくくなり、イライラが減り、頭もはっきりしてきたらしい。20年異常だった肝臓の数値が正常になり医者が驚いた。最近は10代の若者のように動き回っている、という。
著者が現時点で実践していること(他の人にとって正しいとは限らない。未来のことは不明。)
★NMN1グラム、レスベラトロール1グラム、メトホルミン1グラム、ビタミンDとK2の一日推奨量、アスピリン83ミリグラムを毎日。
★砂糖・パン・パスタの摂取量をできるだけ少なく。
★一日のどれか1食を抜くか、少なくする。
★数か月に一度の血液検査
★毎日できるだけ歩き、階段を上がる。週末はジムへ行きバーベルを上げジョギングしサウナと水風呂に入る。
★植物をたくさん食べる。運動した時は肉を食べる。
★タバコは吸わない。プラスチックに食べ物を入れてレンジにかけない。過度な紫外線・レントゲン・CTスキャンを避ける。
★日中と就寝時は涼しい場所にいるようにする。
★BMIを23~25に保つ。
「自分の遺伝子を知ることで可能となること」
現在はDNA解析革命が進行中だ。
例えば、グルテンを受け付けないことがDNA解析でわかればパンを食べるのをやめれば良い。
乳がんの分野では2015年から、がん細胞の遺伝子検査「オンコタイプDX」で、中間リスクを持つ患者でも化学療法ではなくホルモン療法(薬を飲むだけ)のみの処置で良いことがわかったとこの本に書いてあった。余談だが、私は2016年に乳がん手術をしたのだが中間~低リスクであった。おかげで化学療法を受けずに済んだ。科学の進歩が間に合って良かった(汗)。
早く誰でも自分のDNAを安価で解析できるようになると良い。
また著者は、人は単に長生きするだけで良いと考えている訳ではない。それが実現したら社会も政治も経済も大きく変わらずにはいられないからだ。
何も考えずに大量消費・大量破棄を続けるわけにはいかず、温暖化の問題もある。
100年間辞めない政治家が牛耳る世界も問題が多そうだ。
社会保障の危機、かつてないほど広がる格差など問題も山積みだ。
人類の叡智で乗り切ろう、と著者は言う。
ただ、人口増加のペースは着実に落ちている。主な原因は社会の成熟により女性が昔ほど子どもを産まなくなったからだ。
現在は、老化による病気を治療することに多大な医療費がかかっている。著者はこれを「モグラたたき」と呼ぶ。老化そのものを遅らせることで成人病の類の病気は減る。その分を予防医学につぎ込むのが良い。または新しい科学研究や教育に回す。
そして、長く元気で(時々)働ける高齢者が増えれば、税収も上がり消費も増え、旅行をする人も増えるだろう。
今でも高齢者は知識・能力は非常に高いが、体力や老化・病気でリタイアせざるを得ない人も多い。そういう人たちに元気で活躍してもらえば少子化を補えるかも知れない。
何より、生き急ぐことがなくなれば、今をもっと味わえるようになれるかもしれない。
そう人類は知恵を使っていくべきだ。
今現在起きつつあることは、人類が初めて空を飛ぶ直前に似ているとのこと。
これは世界が一変する革命・レボリューションの幕開けであるだけでなく、新たな進化・エボリューションの始まりでもあると著者は言う。